お茶売り場に立つと、番茶とほうじ茶が並んで置かれています。どちらも茶色っぽくて、値段も近い。「で、この二つは何が違うの?」と思ったまま、なんとなくどちらかを手に取って帰る——私も長いことそうでした。
調べてみて、混乱の理由がやっとわかりました。番茶とほうじ茶は、並べて比べるものではなかったんです。比べようとするから、いつまでも答えが出ない。
この記事では、農林水産省や文化庁などの公的資料と、京都府茶業会議所など業界団体の説明をもとに、この二つの本当の関係を整理します。あわせて、番茶という言葉が地域でどれだけ違う意味を持つのか、そして「同じ番茶という名前なのに中身がまったく違うお茶」の話まで書きます。断定できないところは、正直に「諸説あります」と書きました。
結論:番茶とほうじ茶は「別物」ではありません
先に答えを書きます。
番茶を焙じたものも、ほうじ茶です。
農林水産省の広報誌では、ほうじ茶をこう説明しています。「この番茶や煎茶などを焙じて製造したものがほうじ茶です」。つまりほうじ茶は、番茶の対義語ではありません。番茶の行き先のひとつです(もっとも、煎茶を焙じたものもほうじ茶なので、ほうじ茶がすべて番茶からできているわけではありません)。
なぜ混乱するのかというと、二つの言葉が、そもそも別の軸を指しているからです。
- 番茶=どんな茶葉を使ったか(原料・摘む時期の軸)
- ほうじ茶=最後にどう仕上げたか(加工の軸)
縦軸と横軸なので、対立しません。だから「番茶であり、かつほうじ茶でもあるお茶」がふつうに存在します。京都の京番茶がまさにそれで、番茶を焙じたものが商品として売られています(後述します)。
逆に、焙じていない番茶もあります。こちらは煎茶と同じ作り方なので、見た目も煎茶に近い緑系になります。ここまで押さえると、売り場の景色がだいぶ変わってきます。
番茶とは何か|遅く摘んだ葉、硬くなった葉から作るお茶
農林水産省の説明はこうです。「新芽が伸びて硬くなった茶葉や茎などを原料とした番茶。製法は煎茶と同じです」。
ここが大事なところで、番茶と煎茶は、作り方が同じなんですね。蒸して、揉んで、乾かす。違うのは使う葉のほうです。やわらかい新芽を使えば煎茶になり、伸びて硬くなった葉や茎を使えば番茶になる。
お茶は摘む順に一番茶、二番茶、三番茶と呼ばれます。番茶についても「その順から外れたお茶」と説明されることがありますが、公的な定義でそう書かれているわけではありません。農林水産省の説明で確実に言えるのは、硬くなった葉や茎を原料にしているという一点です。
なお、茶種の名称については、公益社団法人日本茶業中央会が「緑茶の表示基準」を定めていて、個々の茶種名は同基準の実施細則に掲げられているとされています。ただしこれは業界の自主基準であって法律の表示ルールではありませんし、後で見るとおり地域ごとの呼び名までは統一されていません。
その一方で、「番茶」という言葉には、原料の区分をこえた意味も重ねられてきました。安価な下級の煎茶を指す、家庭で日常的に飲まれるお茶を指す、各地各様の製法で自家用に作られたお茶を指す——民俗学ではこうした複数の使われ方が整理されています(中村羊一郎『番茶と日本人』吉川弘文館)。どれが正解と決めきれない、というのが実際のところのようです。
言葉の由来もひとつに定まっていません。一番茶・二番茶の順番から外れた「番外の茶」だという説、遅い時期に摘むから「晩茶」だったという説などがあり、諸説あります。民俗学の研究書が一冊書かれるくらい、この言葉は一筋縄ではいかないようです。
私は最初、こういう「定義がはっきりしない」話を読むともやもやしていました。でも今は、むしろこれが番茶らしさなのかもしれない、と思っています。上等な茶は基準が整えられるけれど、暮らしの中で飲まれてきたお茶は、土地ごとに勝手に育つ。その痕跡が言葉に残っている、ということなのだろうと。
ほうじ茶とは何か|「焙じる」という最後のひと工程
京都府茶業会議所は、ほうじ茶を「煎茶や番茶などを強い火で焙って製造したもの」と説明しています。焙じる、つまり高い温度で炒る工程が加わったものがほうじ茶です。
ポイントは原料が一つに限られないところ。番茶を焙じてもほうじ茶、煎茶を焙じてもほうじ茶です(農林水産省・京都府茶業会議所とも「番茶や煎茶など」という書き方をしています)。だから同じ「ほうじ茶」でも、中身は商品によってかなり違います。
焙じることで、葉の色は緑から茶色に変わり、あの香ばしい匂いが立ちます。農林水産省の説明では、ほうじ茶は「独特の香ばしさがあり、渋み、苦みはほとんどなく口当たりが良いのが特徴」とされています。
整理すると、こういう関係になります。
| お茶 | 原料 | 焙じる工程 | 見た目の目安 |
|---|---|---|---|
| 煎茶 | やわらかい新芽 | なし | 緑 |
| 番茶(焙じていないもの) | 硬くなった葉・茎 | なし | 緑〜薄い黄緑 |
| ほうじ茶 | 番茶や煎茶など(一つに限られない) | あり | 茶色〜褐色 |
※原料の区分は農林水産省の説明(番茶=新芽が伸びて硬くなった茶葉や茎などを原料)に基づく整理です。「見た目の目安」は商品や淹れ方で変わるので、あくまで目安として見てください。
表を見ると、ほうじ茶だけ「原料」の欄がゆるいことに気づきます。ほうじ茶は原料の名前ではなく、仕上げの名前なんですね。
地域で呼び方が変わる|「番茶」が指すお茶は土地ごとに違う
ここからが、この話のいちばん面白いところだと思っています。
「番茶」が何色のお茶を指すかは、住んでいる場所で変わると言われます。日本経済新聞が「番茶の色、地域でなぜ違う」という記事で取り上げていて、東京や静岡では深緑色の煎茶タイプ、北海道では茶色いほうじ茶タイプ、というように土地で中身が違うことが紹介されています。公的な統計で確かめられた話ではないので、断定はしません。
つまり、あなたの「番茶」と、隣の県の人の「番茶」は、そもそも違うお茶かもしれない。検索して答えが割れて見えるのは、記事が間違っているというより、言葉のほうが土地ごとに違うからです。
京番茶|番茶を強火で焙じた、スモーキーなお茶
京都の京番茶は、まさに「番茶を焙じたもの」の代表例です。お茶の京都エリアの公式観光情報サイトの説明によると、玉露や煎茶の新芽を摘んだ後に残った大きな葉・硬い葉を刈り取り、蒸したあと揉まずにそのまま天日で乾かし、最後に強火で焙煎して作られます。
揉まないので葉の形が大きいまま残り、袋を開けると枯れ葉のような見た目で驚きます。香りははっきりスモーキー。初めて飲んだとき、私は正直「これはお茶なのか」と戸惑いました。慣れると、この煙っぽさが癖になるという人の気持ちもわかる気がします。
京番茶は、番茶でもありほうじ茶でもある。冒頭の「二つは対立しない」がそのまま形になったお茶です。
阿波番茶(阿波晩茶)|同じ名前でも、これは焙じ茶ではありません
そしてもうひとつ、同じ「番茶」という名前を持ちながら、まったく別の作り方をするお茶があります。徳島県の阿波晩茶(阿波番茶)です。
阿波晩茶は、焙じません。桶に漬け込んで、乳酸発酵させます。
文化庁の文化遺産オンラインの解説では、こう説明されています。「熱処理を加えて茶葉の酸化発酵が生じないようにした上で、さらに漬け込んで新たな乳酸発酵を促す特徴がある」。作業は七月から八月にかけて、茶摘み、茶茹で、茶摺り、漬け込み、茶干し、選別という工程で進みます。漬物に近い作り方です。
この製造技術は2021年3月11日、「阿波晩茶の製造技術」として国の重要無形民俗文化財に指定されました。伝承地は徳島県の上勝町、那賀町、美波町です。
つまり、番茶という名前がついていても、京番茶は焙じたお茶、阿波晩茶は発酵させたお茶。工程がまるきり違います。味も全然違います。私が飲んだときは、梅干しを思わせるような酸味を感じました(個人の感想です)。ほうじ茶を想像して口をつけると、たぶん驚きます。私は最初、間違ったものが届いたのかと思いました。
「番茶」という言葉が土地ごとの日常茶の総称として使われてきた、という話は、こういう実例を見るとよくわかります。番茶は種類の名前というより、暮らしの中の呼び名なんですね。
- 阿波晩茶そのものを詳しく知りたい方は 阿波晩茶とは|徳島の乳酸発酵茶を正直に解説する完全ガイド
- 期待できること・できないことは 阿波番茶の効果とは何か
- 淹れ方は 阿波番茶の飲み方・入れ方
- 飲む前の注意点は 阿波番茶で下痢になる?カフェインは?
同じように微生物の力で発酵させる日本のお茶には、高知県大豊町の碁石茶もあります(碁石茶はどこで買える?)。大豊町の公式サイトによると、碁石茶は漬け込む前にカビ付けの発酵を経るため「阿波番茶よりも製法は複雑」だそうです。日本茶全体の見取り図は 日本のお茶産地マップ と 日本の健康茶15種類まとめ にまとめています。
味・香り・カフェインの違い
味と香り
焙じるかどうかで、印象はかなり変わります。
- 焙じていない番茶:私が飲んだ範囲では、さっぱりして、あっさり。煎茶ほどの旨みや濃さはなく、その分ごくごく飲めます(個人の感想です)。
- ほうじ茶:香ばしさが前に出ます。農林水産省の説明でも「渋み、苦みはほとんどなく口当たりが良い」とされています。
渋みのもとであるタンニンの量も、成分表の数値では差が出ています。浸出液100gあたり、番茶が0.03g、ほうじ茶が0.04g、せん茶が0.07g。せん茶と比べると、どちらも数値の上では控えめです。ただしせん茶は茶10gを430mLで1分、番茶とほうじ茶は茶15gを650mLで0.5分と浸出条件が違うので、単純な横並び比較ではありません。
カフェイン|「ほうじ茶は少ない」と言い切れるか、正直に
ここは、通説と公的な数値が食い違っているところなので、そのまま書きます。
文部科学省の日本食品標準成分表2020年版(八訂)で、浸出液100gあたりのカフェイン量はこうなっています。
| お茶(浸出液) | カフェイン(100gあたり) | 浸出条件 |
|---|---|---|
| 番茶 | 0.01g(約10mg) | 茶15g/90℃650mL/0.5分 |
| ほうじ茶 | 0.02g(約20mg) | 茶15g/90℃650mL/0.5分 |
| せん茶 | 0.02g(約20mg) | 茶10g/90℃430mL/1分 |
| 玉露 | 0.16g(約160mg) | 茶10g/60℃60mL/2.5分 |
番茶とほうじ茶は同じ浸出条件で測られていますが、数値の上ではほうじ茶のほうが多いという結果になっています。「焙じるからほうじ茶はカフェインが少ない」という説明をよく見かけますが、少なくともこの数値だけを見て一般則として言い切ることはできません。
理由はおそらく原料です。ほうじ茶は番茶からも煎茶からも作れるので、何を焙じたかで中身が変わります。成分表の数値は特定のサンプルを分析したものなので、商品によって違うと考えるのが正確なところだと思います。
それでも、番茶もほうじ茶も玉露と比べればカフェインはかなり少ないと言ってよさそうです。玉露の160mgに対して、どちらも10〜20mgの水準。ただし玉露は茶10gを60℃60mLで2.5分、番茶・ほうじ茶は茶15gを90℃650mLで0.5分と、そもそも淹れ方の条件がまったく違うので、厳密に横並びで比べた数字ではありません。農林水産省も「カフェインの過剰摂取について」のページで、この成分表由来の値を目安として示しています。ノンカフェインではありませんが、玉露と比べれば穏やかな部類に入ります。
なお、お茶は食品であって医薬品ではありません。カフェインの量を体調の話に直結させるつもりはなく、ここでは公的な数値をそのまま置いておきます。妊娠中や、カフェインを控えるよう言われている方は、量の判断は主治医に相談してください。
カフェインについては、成分表の数字や、夜・妊娠中に飲むときの目安までほうじ茶のカフェインは?ノンカフェインではありませんで詳しく扱っています。
どちらを選べばいいか
「違い」がわかったところで、実際どちらを買えばいいのか。私なりの目安です。
- 香ばしい匂いが好き/食後に一息つきたい → ほうじ茶。焙煎の香りが立つので、部屋の空気ごと落ち着く感じがします。これは香りの話で、カフェインが少ないという意味ではありません(数値は前の章の表のとおりです)。
- 食事に合わせてごくごく飲みたい/さっぱりが好き → 焙じていない番茶。主張が弱いぶん、料理の邪魔をしません。
- 渋いお茶が苦手 → 香ばしいほうじ茶が飲みやすいと私は感じます(個人の感想です)。なお番茶とほうじ茶のあいだでは、成分表の数値上むしろほうじ茶のほうがタンニンもカフェインもやや多いので、「ほうじ茶だから軽い」と一般化はできません。せん茶と比べれば、どちらもタンニンの数値は控えめですが、浸出条件が違うので単純比較はできません。
- 変わったお茶を体験したい → 京番茶(スモーキー)か、阿波晩茶(酸味のある乳酸発酵茶)。どちらも最初の一口は驚きます。
それと、買うときのちょっとした注意点をひとつ。
パッケージに「番茶」とだけ書かれている商品は、緑色のものと茶色いものの両方があり得ます。ここまで読んでくださった方ならもうおわかりのとおり、番茶という表示は焙じてあるかどうかを保証しません。通販で買うときは商品写真の色を確認するか、説明文に「焙じ」「焙煎」の語があるかを見るのが確実です。私は一度、緑色を期待して買ったら真っ茶色が届いて、しばらく袋を眺めていました。あれはあれで美味しかったのですが。
ほうじ茶そのものに何を期待できるのか、逆に期待しすぎないほうがいいことは何かは、ほうじ茶の効能を正直にで正直に整理しました。
よくある質問
番茶とほうじ茶、どちらが上等なお茶ですか?
上下で比べる言葉ではありません。番茶は原料(硬くなった葉や茎など)の区分、ほうじ茶は焙じるという仕上げの区分です。番茶を焙じればほうじ茶になるので、同じお茶が両方に当てはまることもよくあります。
ほうじ茶はノンカフェインですか?
いいえ、ノンカフェインではありません。日本食品標準成分表2020年版(八訂)では、ほうじ茶の浸出液100gあたりのカフェインは0.02g(約20mg)とされています。玉露の0.16g(約160mg)と比べれば少ない水準ですが、含まれてはいます。
「番茶」と「晩茶」はどう違いますか?
同じお茶に両方の表記が使われることがあり、明確な線引きはありません。徳島の阿波晩茶のように「晩」の字を当てる産地もあります。語源についても、一番茶・二番茶の順から外れた「番外の茶」だとする説、遅い時期に摘むから「晩茶」だとする説などがあり、諸説あります。
京番茶と阿波晩茶は、どちらも番茶なのに味が違うのはなぜですか?
作り方が根本的に違うからです。京番茶は蒸した葉を揉まずに乾かし、強火で焙煎します。一方、阿波晩茶は熱処理したあと桶に漬け込んで乳酸発酵させます(文化庁の解説による)。焙じたお茶と発酵させたお茶なので、同じ名前でも別のお茶と考えたほうが近いです。
番茶が地域で違うお茶を指すというのは本当ですか?
公的な統計で確認できたわけではありませんが、日本経済新聞の記事などで紹介されています。東京・静岡では深緑色の煎茶タイプ、北海道では茶色いほうじ茶タイプを指す、といった具合です。検索結果で説明が食い違って見えるのは、この地域差が背景にあると考えられます。
まとめにかえて
番茶とほうじ茶を並べて「どっちがどっち」と考えているうちは、たぶんずっと答えが出ません。番茶は葉の話、ほうじ茶は火の話。軸が違うのだと気づいた瞬間に、私はようやく腑に落ちました。
そして、同じ「番茶」という名前の下に、京都の煙っぽいお茶も、徳島の酸っぱい発酵茶も入っている。定義が揺れているのは、この言葉が制度から生まれたのではなく、それぞれの土地の暮らしから生まれたからなのだろうと思います。曖昧さごと味わうくらいで、ちょうどいいのかもしれません。
出典
- 農林水産省 広報誌aff 2022年4月号「味わいや香りもさまざまなお茶の種類」 https://www.maff.go.jp/j/pr/aff/2204/spe1_03.html
- 京都府茶業会議所「お茶の種類」 https://ujicha.or.jp/knowledge/kinds/
- 公益社団法人日本茶業中央会「緑茶の表示基準」(茶種の名称は同基準の実施細則 表1 名称欄に規定) https://www.nihon-cha.or.jp/standard.html
- 日本経済新聞「番茶の色、地域でなぜ違う 東京は緑・北海道は茶…」 https://www.nikkei.com/article/DGXNASFK3100U_S3A900C1000000/
- 高知県大豊町「『本場の本物』大豊の碁石茶」 https://www.town.otoyo.kochi.jp/tokusan/dtl.php?id=43
- 文化庁 文化遺産オンライン「阿波晩茶の製造技術」 https://online.bunka.go.jp/heritages/detail/541631
- 文部科学省「日本食品標準成分表2020年版(八訂)」16群 し好飲料類(食品番号16034・16037・16039・16040の備考欄) https://fooddb.mext.go.jp/
- 農林水産省「カフェインの過剰摂取について」 https://www.maff.go.jp/j/syouan/seisaku/risk_analysis/priority/hazard_chem/caffeine.html
- お茶の京都グリーンライナー「京番茶」 https://www.green-liner.jp/?find=kyoubanntya
- 中村羊一郎『番茶と日本人』(歴史文化ライブラリー46、吉川弘文館、1998年)
