ほうじ茶の世界には、「葉」ではなく「茎」が主役のお茶があります。石川県・金沢や加賀で愛されてきた加賀棒ほうじ茶(加賀棒茶)です。茶葉の主流から外れた茎の部分が、この土地では堂々の主役。しかも昭和天皇に献上するために生まれた特別な一品まである——調べるほど、「脇役の逆転劇」のような物語を持つお茶でした。
この記事では、加賀棒ほうじ茶とは何か、普通のほうじ茶との違い、献上加賀棒茶の物語、淹れ方、そしてどこで買えるかまでを、裏取りした範囲で正直にまとめます。
加賀棒ほうじ茶とは|「棒」=茶の茎を焙じたお茶
加賀棒ほうじ茶は、茶の茎の部分を集めて焙煎した、石川県(金沢・加賀)のほうじ茶です。「棒」という名前は、茎の見た目そのまま。地元では「棒茶(ぼうちゃ)」の呼び名で、日常のお茶として古くから親しまれてきました。「江戸初期の頃から飲まれてきた」と紹介されることもありますが、年代については伝承の域を出ないので、ここでは「古くから」に留めておきます。
茎と聞くと「余りものでは?」と思うかもしれません。わたしも最初はそう思いました。でも実際は逆で、茎ならではの甘い香りとまろやかさを引き出すために、あえて茎を選んで焙じるお茶なのです。
葉のほうじ茶との違い
| 一般的なほうじ茶(葉) | 加賀棒ほうじ茶(茎) | |
|---|---|---|
| 原料 | 煎茶や番茶の葉 | 茶の茎(棒) |
| 香り・味 | 力強い香ばしさ、すっきり | 甘みを感じるやわらかな香ばしさ、まろやか |
| カフェイン | 浸出液100gあたり0.02g(日本食品標準成分表・八訂) | 茎は葉よりカフェインが少なく、その分少なめ |
カフェインの点は補足が必要です。カフェインは新芽にもっとも多く、茎には葉より少ない——これは棒茶の本場・丸八製茶場さんが公式に解説していることです。ただし、「少なめ」であって「ノンカフェイン」ではありません。ほうじ茶一般のカフェイン量については、こちらで数字つきで検証しています。→ ほうじ茶のカフェインは?ノンカフェインではありません
献上加賀棒茶の物語——昭和天皇のために生まれた一杯
加賀棒茶の名を広く知らしめたきっかけの一つとされるのが、「献上加賀棒茶」です。1983年(昭和58年)、全国植樹祭で石川県を訪れた昭和天皇にお出しするお茶として、加賀市の丸八製茶場が作り上げました。お年を召されてから特に焙じ茶を好まれたと伝わる昭和天皇のために、一番摘みの良質な茎を選び、うまみを損なわないよう浅く焙じる——試行錯誤の末に生まれた製法だそうです。
「深く焙じて香りを立てる」のが普通のほうじ茶だとすると、献上加賀棒茶は「浅く焙じてうまみを残す」という逆の発想。脇役だった茎が、いちばん丁寧な仕事で主役になった瞬間です。この物語を知ってから飲めば、湯のみの中の琥珀色がすこし違って見えそうです。
味と香りの特徴
産地の茶舗や取材記事では、加賀棒ほうじ茶の持ち味は次の3つで語られることが多いです。
- 甘い香ばしさ:葉のほうじ茶の勇ましい香ばしさに比べて、どこか甘さをまとったやわらかい香り。
- まろやかな飲み口:渋みが穏やかで、すっと消える後味。
- 澄んだ琥珀色:湯のみに注いだときの明るく澄んだ色も、棒茶の楽しみのひとつ。
金沢・加賀では棒茶が日常のお茶として親しまれてきただけあって、和菓子と合わせて楽しまれていると紹介されています。旅先の一服として、いつか現地で飲み比べてみたいお茶の筆頭です。
おいしい淹れ方
丸八製茶場さんの案内などをもとにした、淹れ方の目安です。
- 湯温:熱湯で。高温のほうが香ばしい香りが立ちます。
- 時間:さっと短めに。長く置くより、香りが立ったところをいただくのがおすすめとされています。
- 道具:茎はかさばるので、煎茶用の小さな急須だと目詰まりすることも。大きめの急須や土瓶がゆったり淹れられます。
- カフェインを抑えたいとき:カフェインは湯温が低いほど・抽出時間が短いほど出にくく、水出しならさらに抑えられます(抽出の性質としてのお話です)。
どこで出会えるか|金沢と加賀で、淹れたてを一杯
献上加賀棒茶をつくった丸八製茶場は、直営店を構えています。公式の店舗一覧によると、喫茶のある店は、加賀市の本店、金沢・ひがし茶屋街の「一笑(いっしょう)」、東京のエキュート品川店の3つ。金沢駅の金沢百番街にも販売の店があります。
金沢の旅の途中なら、ひがし茶屋街の「一笑」が立ち寄りやすい場所です。町家を改装したほうじ茶の専門店で、茶葉を買うだけでなく、席で棒茶を味わえます。営業時間と定休日は変わることがあるので、出かける前に丸八製茶場の店舗一覧で確認してください。
どこで買える?——楽天でも産地からの通販が豊富
加賀棒ほうじ茶は、金沢・加賀の茶舗の店頭はもちろん、通販でも手に入ります。楽天市場には産地の茶舗の茶葉やティーバッグが並んでいるので、まずは検索結果を眺めて、産地・焙煎の説明がきちんと書かれたものを選ぶのがおすすめです(以下は検索結果ページへのリンクです)。
選ぶときの小さなコツをひとつ。「棒茶」と名乗っていても焙煎の深さはお店ごとに違うので、一般に浅炒りはうまみ・甘み寄り、深炒りは香ばしさ寄りとされるので、その商品がどちらなのかの説明を見てから選ぶと、好みに合う一杯に出会いやすくなります。
よくある質問(FAQ)
Q. 加賀棒ほうじ茶と普通のほうじ茶は何が違うのですか?
A. 原料が違います。一般的なほうじ茶は葉を焙煎しますが、加賀棒ほうじ茶は茶の茎(棒)を焙煎します。茎ならではの甘い香ばしさとまろやかさが持ち味です。ほうじ茶と番茶の関係はこちらで整理しています。→ ほうじ茶と番茶の違い
Q. カフェインは少ないのですか?
A. カフェインは新芽に多く茎には少ないため、茎が主原料の棒茶は葉のほうじ茶より少なめです。ただしゼロではありません。カフェインに敏感な方は、水出しにする・量を控えめにするなど、ご自身に合わせて調節してください。
Q. 献上加賀棒茶とは何ですか?
A. 1983年(昭和58年)の全国植樹祭で石川県を訪れた昭和天皇にお出しするために、加賀市の丸八製茶場が一番摘みの茎を浅く焙じて作ったお茶です。現在も同社で販売されています。
Q. 金沢土産にも向いていますか?
A. 向いていると思います。軽くてかさばらず、日持ちのする茶葉やティーバッグの商品が多いので、旅の土産にも選びやすいお茶です。
